カタチに込める思い
あるシンガーソングライターのライブト―クを集めたCDを聴くことがあってね。
その中のお話。
その歌手が新幹線に乗った時に車掌さんからサインを頼まれたそうな。
物腰柔らかな白髪の車掌さんが、とても遠慮がちに差し出した色紙はヨレヨレの古びたものだった。
そもそも色紙を持ってるってのも珍しい、その色紙がヨレヨレなのも変だ。
何となく興味を持って、その後たまたまデッキで車掌さんに会った時に尋ねてみた。
その色紙は3年前に車掌さんの娘さんから預かったものだとのこと。
ちょうど3年前に自分が車掌をしていた列車にその歌手が乗り合わせ、そのことを家で娘さんに話したところ娘さんはその歌手の大ファンだったそうで、ぜひ今度会ったらサインをもらってきてほしいと色紙を託されたのだそうな。
「それから3年、私はあなたの列車には乗ることはなかったのですね。」と歌手が聞くと「いいえ、それから何度かお見受けしました。」と車掌さん。
「なぜ、声をかけなかったんですか?」と歌手。
「私は仕事で列車に乗ってます。そこにあなたはお客様としてくつろいでおられる。そのお客様にサインをお願いするというのが、どうも私には出来なかったのです。」
ところが今日またその歌手と出会えた車掌さん、実は定年退職で新幹線に乗る最後の日だったらしい。
そしてサインを頼んだ娘さんは、春に結婚することが決まっているとのこと。
歌手はそれを聞き、強くお願いして色紙に「おめでとう」の言葉を書き加えさせてもらった。
古いままの色紙を差し出した車掌さんは恐縮しきりで歌手に何度もお礼を言ったという。
体験した出来事はここまで。
そして、その歌手は最後に「ここから先は自分の勝手な想像だけれども」と言ってこう付け加えた。
その日、帰宅した車掌さんが娘さんに色紙を渡す時のことを想像してみた。
そこで渡すのは自分のサインだけど、車掌さんにとっては単にそれだけのことではなく、父から娘への色んな思いを手渡すんだ。
普段は不器用で上手く伝えられない自分というものを、その色紙に思いを込めて手渡すんだ。
そこにたまたま歌手として自分が関われたんだと思うと、自分も幸せな気持ちになれた。
最後はこういう言葉で締めくくられる。
「あー、この商売もまんざら悪いもんじゃないなと思える瞬間だったね。」
これ聴いてね、自分も仕事やってくときにね、たまたまの縁で出会った人との関わり、そして関わっていく時の思いってのを大切にしたいなーと改めて実感した次第よ。
まあね、日々やってると時にはサボったり、イライラして雑になったりってあるけども。
それでもヤケになったりブチ切れたりはしない。
多分しないと思う。
しないんじゃないかな。
まちょと覚悟はしておけー。
ということで、その歌手の代表作のフレーズで締めくくり♪